坂井 紀公子  SAKAI Kikuko

■研究テーマ:『いちばにおける女性の商業活動』『女性の金融活動』『ウガンダ北部における「うなづき症候群」』に関する研究関心領域

■研究概要

ケニアの多くの地域において、マーケットで農産物を売買しているのは主として女性である。女性たちは、マーケットを商業活動だけではなく社会的な交渉を行う空間として利用する。1980年代に始まった構造調整以降、マーケットでは、行政機関が流通の効率化を標榜して営業規制を始め、さらに国際援助機関が零細事業者を対象にマイクロファイナンスを導入し、そして近年になると、広域にわたって農産物の生産・輸送・販売を一貫して行う大資本が進出してきた。こうした変化により、ローカルなマーケットが急速かつ直接にグローバル経済へ連結し始めている。

本研究の目的は、女性商人たちがローカルな文脈と価値観に基づいて行う経済的・社会的実践によって、「市場経済」がマーケットでどのように具現化されてゆくのかを明らかにすることである。調査地のマーケットが位置するマチャコス県は首都ナイロビに隣接し、この地域には農耕を主な生業とするカンバ(Akamba)人が居住する。県内各地から集まる多くの女性商人は、農産物を首都ナイロビで仕入れてマチャコス市のマーケットで販売し、そこで得た利益を農地の購入や耕作のために投入している。

1990年代に入ると、マチャコス市当局はマーケットを整備し、新しい業務規定を次々に導入していった。商人たちはその過程で現実にそぐわない規定に対して抵抗と無視で臨み、さらに市当局との間で交渉・調停・調整を行い規定の内容を変更させた。すなわち商人たちは、顧客・商品・販売場所といった諸条件に裏打ちされたローカルな正当性を主張し、一般的な流通の効率化を目的とした規定を受け入れはしなかった。本研究では、こうした事例の分析を通して、ローカルな空間では双方向的な力関係が成立しうることを示し、権力の二面性、すなわち権力に及ぼされている者も、一方的に権力を行使されているわけではないことを明らかにする。

専門分野:文化人類学、人文地理学、医療人類学、住民組織(CBO)と地域発展の関係
キーワード:

■ 主な業績

【著書】

坂井紀公子. 2015. 「いちばでのルール形成 その3:営業時間をめぐる現場職員と商人の駆引き」太田至編『アフリカ紛争・共生データアーカイブ第2巻』 京都大学アフリカ地域研究資料センター, 30.

坂井紀公子. 2015. 「いちばでのルール形成 その2:卸売商と小売商を区別するルール」太田至編『アフリカ紛争・共生データアーカイブ第2巻』 京都大学アフリカ地域研究資料センター, 29

坂井紀公子. 2015. 「いちばでのルール形成 その1:使用料をめぐる市当局と商人たちの駆引き」太田至編『アフリカ紛争・共生データアーカイブ第2巻』 京都大学アフリカ地域研究資料センター, 28.

坂井紀公子. 2012. 「地方都市のマーケットと女性たち―野菜商ムエニさんの日常生活」 松田素二・津田みわ編 『ケニアを知るための55章』 明石書店, 257-261.

坂井紀公子. 2012. 「ソコはアツイ女の園―カニィニとの思い出」 松田素二・津田みわ編 『ケニアを知るための55章』 明石書店, 269-271.

坂井紀公子.2012. 『マーケットに生きる女性たち―ケニアのマチャコス市における都市化と野菜           商人の営業実践に関する研究』 松香堂書店, 319ページ.

坂井紀公子. 2012. 「マチャコス」「キトゥイ」始め5項目 加藤博・島田周平編 『世界地名大事典3―中東・アフリカ』 朝倉書店.

【論文等】

Kikuko, S. 2013. Potentials of informal financial systems in extending access to financial services in Africa: A study on Rotating Savings and Credit Associations and Accumulating Savings and Credit Associations in Kenya. In Proceedings of International Symposium on Conflict Resolution and Coexistence. Center for African Area Studies, Kyoto University, Kyoto, Japan, pp. 201.

坂井紀公子. 2011. 「市場のルールが形成されるとき―ケニア・マチャコス市公設マーケットにおける商人たちの営業実践と営業規定の変遷の関係を考える」  『生態人類学会ニュースレター』 17: 12-14.

坂井紀公子. 2010. 「ケニアの地方都市マチャコスにおける女性商人の営業実践に関する研究―公設マーケットの整備と農産物流通に注目して」 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士論文.

坂井紀公子. 2004. 「トマトの違い―ケニアのマチャコス公設マーケットで野菜小売商から学んだこと」 『アジア・アフリカ地域研究』 4(1): 155-160.

坂井紀公子. 2000. 「ジャガイモ商人にみられる協力・競合関係:マチャコス市のジャガイモ卸売商人を中心に」『生態人類学学会ニュースレター』 6: 2-3.

坂井紀公子. 2000. 「ケニア・マチャコスタウンマーケットにおけるジャガイモ卸売業の担い手に関する研究―生活を切り開く商い」 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士予備論文.

坂井紀公子. 1998. 「ケニアにおける野菜女性商人の経済活動―マチャコスタウンマーケットを事例に」 大阪市立大学大学院文学研究科修士論文.

【その他】

坂井紀公子. 2015. 「ウガンダの紛争後地域における『うなづき症候群』の問題に対処する住民組織に関する研究」日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究S『アフリカの潜在力を活用した紛争解決と共生の実現に関する総合的地域研究』2015年度派遣報告.

坂井紀公子・小川裕子編. 2013. 『アジア・アフリカ地域を理解するためのトライアンギュレーショ ン・プロジェクト成果論集』 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究 研究科. (編集担当)

坂井紀公子・小川裕子編. 2013. 『アジア・アフリカ地域を理解するためのトライアンギュレーショ ン・プロジェクト―平成22-24年度 実施最終報告書』 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科. (編集担当)

【口頭発表】

坂井紀公子. 2016.6. 「ウガンダ北部で流行する『うなづき症候群』の患者家族による住民組織の活動:“ALCONS”を事例に」日本アフリカ学会第53回学術大会, 日本大学.

Kikuko, S. 2015.9. “Patients who face many difficulties: A case study of a community based organization for the care and treatment for Nodding Syndrome in northern Uganda” In International Symposium on How Do Biomedicines Shape Life, Society and Landscape in Africa?, National Museum of Ethnology, Suita, Japan.

坂井紀公子. 2015.5. 「ウガンダ北部で流行する『うなづき症候群』の患者世帯と住民組織の特徴-世帯調査からみる世帯をこえた社会的なケアの可能性」日本アフリカ学会第52回学術大会, 京都大学霊長類研究所, 公益財団法人日本モンキーセンター共催.

坂井紀公子. 2014.11. 「『うなづき症候群』の問題に対処する住民グループに関する調査の報告」日本熱帯医学会第55回研究大会, 国立国際医療研究センター.

坂井紀公子. 2011.3. 「市場のルールが形成されるとき」 生態人類学会第16回研究大会, 京都大学.

坂井紀公子. 2001.5. 「マチャコス市の公設マーケットにおける業務規定の形成過程」 日本アフカ学会第38回学術大会, 東北大学.

坂井紀公子. 2000.5. 「都市行政と商人の対応―マチャコス市のジャガイモ卸売商人を事例に」 日本アフリカ学会第37回学術大会, 広島市立大学.

坂井紀公子. 2000.3. 「ジャガイモ商人にみられる協力・競合関係」 生態人類学会第5回学術大会, 山口県立大学.

坂井紀公子. 1998.3. 「ケニアにおける野菜女性商人の経済活動」 日本民族学会第13回近畿地区研究懇談会, 大阪大学.

坂井紀公子. 1997.11. 「ケニアにおける女性零細商人の経済活動」 人文地理学会大会, 大阪市立大学.

【ポスター発表】

佐藤靖明・武井弥生・齋藤貴志・坂井紀公子・太田至. 2015.5. 「ウガンダ北部で流行する『うなづき症候群』の治療とケアを目指すネットワーク活動の現状―学際的なアプローチの課題と展望をめぐって」日本アフリカ学会第52回学術大会, 京都大学霊長類研究所, 公益財団法人日本モンキーセンター共催.

Kikuko, S. 2013.10. (ポスター発表) “Potentials of informal financial systems in extending access to financial services in Africa: A study on Rotating Savings and Credit Associations and Accumulating Savings and Credit Associations in Kenya”, International Symposium on Conflict Resolution and Coexistence, Center for African Area Studies, Kyoto University, Kyoto, Japan.

■ 社会貢献活動

2011年10月17日 高知県安芸郡奈半利町奈半利中学校へ出前授業 (京都大学スーパーサイエンススクール事業)

2011年10月27日 大阪府池田市立池田中学校へ出前授業  (京都大学スーパーサイエンススクール事業)

2011年11月14日 山形県立庄内総合高等学校へ出前授業 (京都大学スーパーサイエンススクール事業)

2011年11月24日 三重県津市立栗真小学校へ出前授業  (京都大学スーパーサイエンススクール事業)

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